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Angiotensin IIによる血管平滑筋収縮の新しい機序
−KLHL2-WNK3-SPAK-NKCC1カスケード−


銭谷慕子、高橋大栄、森雄太郎、森崇寧、須佐紘一郎、蘇原映誠、頼建光、内田信一

東京医科歯科大学医歯学総合研究科 腎臓内科学

【目的】
遺伝性高血圧疾患である偽性低アルドステロン症II型(PHAII)の原因遺伝子として知られるWNK4は、腎臓においてangiotensin IIやaldosteroneの刺激を受けてSPAK-NCCリン酸化シグナル伝達系を活性化し、Naの再吸収を促進する.

Angiotensin IIは血管平滑筋を収縮させ、血圧を上昇させる重要な因子である.また、血管平滑筋のNa/K/Cl cotransporter isoform 1 (NKCC1)による細胞内Cl濃度の調節が血管平滑筋収縮に関与する.以前の我々の研究で、angiotensin IIがAT1Rを介しWNK3-SPAK-NKCC1リン酸化シグナルを活性化し血管を収縮させる機序が解明されていたが、angiotensin IIによるWNK3の制御機構については不明であった.
近年、PHAIIの原因遺伝子として新たにKLHL3が同定され、KLHL3-Cullin3複合体がWNKを基質とするE3リガーゼとして働き、WNK4およびWNKファミリーの分解を促進することが発見された.さらに、類似蛋白であるKLHL2もKLHL3同様、WNKに結合しその分解を促進することも明らかになった.
今回、angiotensin IIによるWNK3-SPAK-NKCC1シグナルにおけるKLHL蛋白の関与と血管収縮の機序解明を行った.


【方法】
マウスの大動脈と血管平滑筋細胞において、KLHL蛋白の発現確認をRT-PCRおよびwestern blotting法で確認した.また、マウスや血管平滑筋細胞へのangiotensin IIの投与実験を行い、angiotensin II投与時の大動脈や血管平滑筋細胞におけるKLHL2およびWNK3の蛋白量とmRNAの変化を調べた.さらに、KLHL2のノックダウンおよび強制発現実験により、KLHL2のWNK3-SPAK-NKCC1シグナルへの関与を検討した.また、種々の分解阻害薬投与やノックダウン実験を行い、KLHL2の分解機構についても解析した.

【結果】
マウスの大動脈と血管平滑筋細胞において、KLHL蛋白の一つであるKLHL2が存在していることを発見した.また、angiotensin IIを投与すると大動脈や血管平滑筋細胞におけるKLHL2が減少し、WNK3が増加することが明らかになった.さらにマウス血管平滑筋細胞において、KLHL2がWNK3-SPAK-NKCC1のリン酸化シグナルの活性化を制御していることが解明された.またangiotensin IIによるKLHL2の減少が、p62による選択的オートファジーを介した分解によることも明らかになった.

【考察】
Angiotensin IIによる血管収縮には、選択的オートファジーによるKLHL2- WNK3-NKCC1シグナル伝達系の制御が重要な役割を果たしているということが明らかになった.Angiotensin IIによる血管収縮という古典的な現象にオートファジーが関与していたことは報告がなく、重要な発見である.血管平滑筋におけるKLHL2-WNK3-SPAK-NKCC1シグナル伝達系は、angiotensin IIによる血圧調節機構の新たな分子機構であり、新規創薬ターゲットとなる可能性がある.